Journal世界の水素・持続可能性ニュース

トップ / 特集

特集

地方に眠るバイオマスのガス化が秘める可能性 エネルギー代金の流出を止め、地域の収支を変える

牛や鶏のふん、家庭や事業所のごみ、景観を守るための伐採木。地方に眠る未利用のバイオマスを水素やメタンに変えれば、地域の外へ流れ出ているエネルギー代金を取り戻し、ガソリンスタンドや路線バスといった暮らしの基盤を支え直せるかもしれない。環境省・経済産業省・農林水産省などの公開データで、その可能性と条件を検証する。

BLUE NOVA編集部

地域資源

FEATURE / BIOMASS / REGIONAL ECONOMY

地方の町には、使われずに捨てられているエネルギーの元がたくさんある。牛や鶏のふん、家庭や事業所から出るごみ、観光地の景観や防災のために伐った木や枝。いずれもバイオマスで、発酵させればメタンに、熱で分解すれば水素を含むガスになる。一方で、同じ町は毎年、ガソリン・軽油・重油・電気の代金を外へ支払い続けている。この二つを結びつけると、何が起きるのか。環境省、経済産業省、農林水産省、国土交通省などが公開している数字を手がかりに、地方のバイオマスのガス化が秘める可能性と、実現の条件を整理する。

地方の収支はエネルギーで赤字になっている

環境省は全国の約1,700市町村について、お金の流れ(生産・分配・支出)を分析する「地域経済循環分析」を公開している。その中でもっとも目を引くのが、エネルギー代金の収支だ。環境省の2015年の資料によると、全国の自治体の約9割でエネルギー代金(電気・ガス・ガソリンなど)の収支が赤字、つまり地域の外へ支払う額が地域の中で得る額を上回っている。約7割の自治体では、流出する額が域内総生産(GRP)の5%相当以上にのぼり、151の自治体ではGRPの10%以上が流れ出ていた。環境白書(平成30年版、令和元年版)も、2013年時点で9割を超える自治体でエネルギー収支が赤字だと記している。

個別の町で見ると規模がつかめる。環境白書によると、北海道下川町では2013年に約9億円、町の総生産の約6.3%がエネルギー代金として町の外に出ていた。内訳でもっとも多いのが石油・石炭製品、次いで石油・原油・天然ガスだ。下川町は森林バイオマスの熱利用に切り替えることで浮いた燃料代を、保育料の軽減や給食費の補助に回している。環境省の分析ツールの紹介資料では、熊本県水俣市の流出額が約63億円(GRPの約8.2%。石油・石炭製品が約29億円、電気が約16億円)、宮城県岩沼市が約99億円(約4.9%)と例示されている。

ここで大事なのは、流出の中身が「石油製品」と「電気」だという点だ。暖房や給湯の灯油・重油、車と農機の軽油とガソリン、そして電力会社から買う電気。これらはいずれも、地域の中でつくったガスや電気、熱で置き換えられる余地がある。地域の人口が減っても、エネルギーの支払いは生活と産業が続く限り続く。だからこそ、この流出を少しでも地域の中に留める仕組みは、人口減少のもとで地域の収支を改善できる数少ない手段の一つになる。

維持が難しくなっている暮らしの基盤 ガソリンスタンドと路線バス

エネルギーの供給を支えてきた地方のインフラは、維持そのものが難しくなっている。資源エネルギー庁によると、給油所(SS)の数は1994年度末の60,421か所をピークに減り続け、2023年度末に27,414か所、2025年度末には約2.6万か所と半分以下になった。同庁は市町村内のSSが3か所以下の自治体を「SS過疎地」と呼び、その数は2018年度末の326から2025年度末には381市町村に増えた。

減少の背景には需要の減少と高齢化・後継者不足に加え、設備の更新費用がある。給油所の地下タンクは消防法の規制を受け、2011年に施行された改正省令では、設置から40〜50年を超えた鋼製の地下タンクのうち腐食のおそれが高いものに、内面のライニングや電気防食といった漏れ防止の措置が義務づけられた。資源エネルギー庁の研究会の中間とりまとめ(2026年8月)は、「地下タンクの入換・漏えい防止等の設備投資が経営の負担」になっていると指摘し、同庁のSS事業者へのアンケートでも、課題の上位に「施設や設備の維持・更新コストの捻出」と「施設の老朽化」が挙がる。タンクを更新できずに閉めるガソリンスタンドが続けば、その町の人は燃料を買うために隣の町まで走ることになり、エネルギー代金の流出はむしろ増える。

路線バスも同じ構図にある。国土交通省の資料によると、2016年度から2024年度までに全国で約15,804kmの路線バスが廃止された。保有30両以上の乗合バス事業者のうち黒字は令和元年度で27.7%にとどまり、7割以上が赤字だ。バスの運転者は2016年度の13.3万人から2023年度には11.4万人へ減った。国は地域公共交通確保維持改善事業で年200億円規模の支援を続けているが、燃料費と人件費の両方が重くのしかかる地方の交通を、補助金だけで支え続けるのは難しい。

地域に眠る資源の量

では、置き換えに使える資源はどれだけあるのか。農林水産省の「バイオマス活用推進基本計画」(2022年9月)によると、家畜排せつ物は年間約8,000万トン発生し、利用率は約86%。食品廃棄物等は約2,400万トンで利用率は約58%、林地残材は約970万トンで利用率は約29%にとどまる。農林水産省の2026年10月の推計では、家畜排せつ物は肉用牛が約2,282万トン、乳用牛が約2,087万トン、豚が約2,009万トン、採卵鶏が約767万トン、ブロイラーが約593万トン、合わせて約7,740万トンだ。

家畜排せつ物の「利用率86%」の多くは堆肥としての利用で、エネルギーとして使われているのはごく一部にすぎない。堆肥化の前にメタン発酵にかければ、肥料としての価値(消化液)を残したまま、ガスというエネルギーを取り出せる。鶏ふんは乾いていて熱量が高く、燃焼や熱分解ガス化に向く。家庭や事業所のごみは、環境省の集計で2023年度(令和5年度)の一般廃棄物の総排出量が3,897万トン(1人1日あたり851g)あり、その多くは焼却されている。ごみ発電や、ごみを高温でガスに変える技術は、廃棄物処理と発電を一体にできる。

観光地や街道の景観を守るための伐採木、防災のための支障木、公園や街路樹の剪定枝は、統計上は林地残材や一般廃棄物に混ざっているが、集めれば木質の燃料になる。利用率が約29%にとどまる林地残材と同じく、「集めてくる費用」が壁になっている資源だ。裏を返せば、景観整備や防災の作業と燃料の収集を一つの事業にできれば、どちらにもかかっていた費用を一度で賄える。

ガス化で何ができるか メタン、水素、コジェネ、水素エンジン

バイオマスをガスにする方法は大きく二つある。一つは微生物によるメタン発酵(バイオガス)で、ふん尿・生ごみ・下水汚泥のように水分の多い原料に向く。できたガスは精製すればバイオメタンとして都市ガスやトラックの燃料になり、改質すれば水素になる。もう一つは熱による分解(熱分解・ガス化)で、木質やプラスチックを含むごみのように乾いた原料に向く。水素と一酸化炭素を主成分とする合成ガスができ、水素を取り出したり、メタネーションでメタンにしたりできる。

実例はすでにある。北海道鹿追町は、家畜ふん尿のバイオガスプラント(環境保全センター)で発電するだけでなく、2017年からバイオガスから水素を製造して燃料電池車に供給する「しかおい水素ファーム」を運営し、燃料電池は停電時の非常用電源にもなる。大分県九重町では清水建設など6社が、地熱の蒸気と木質バイオマスから水素をつくる実証プラント(能力50Nm³/時)を2022年に完成させ、環境省の事業の成果報告では製造コスト30円/Nm³(目標35円)を達成した。鹿児島県では中越パルプ工業と清水建設が、バイオマスを炭化して水蒸気改質する方法で年100トン規模の水素製造を検証している。出光興産は一般ごみなどの廃棄物をガス化・改質して水素をつくる初期プラント(日量200〜300トン)を2030年代前半に建てる構想を示し、自治体と連携した地産地消を掲げる。

メタンの側では、北海道・十勝の酪農家のバイオガスを精製・液化した「液化バイオメタン」が2022年に国内で初めて稼働し、LNGトラックの燃料や食品工場に使われている。鹿追町と帯広ガス、エア・ウォーターは、バイオメタンを都市ガスに混ぜて供給する計画を進めている。つくったガスの使い道として注目されるのがコジェネ(熱電併給)と水素エンジンだ。ヤンマーエネルギーシステムは2024年11月、千葉県袖ケ浦で水素専焼エンジン発電(320kW)を稼働させた。川崎重工は7.5MW級のガスエンジンで水素30%混焼を実証し、2030年ごろの水素専焼エンジンの商品化を目標にしている。路線バスやトラックについては、液化バイオメタンを混ぜたLNGトラックの運行がすでに行われており、将来の水素エンジン車とあわせ、地域でつくった燃料で地域の車を走らせる道筋が見えてきた。

収益の柱 売電と燃料、そして熱

バイオガス発電の収入の柱は、いまもFIT(固定価格買取制度)による売電だ。資源エネルギー庁のガイドブックによると、下水汚泥・家畜ふん尿・食品残さなどのメタン発酵ガス発電の買取価格は2024〜2026年度で35円/kWh(期間20年)、間伐材など未利用の木質バイオマス発電(2,000kW未満)は40円/kWhである。

自治体の事例を数字で見ると、鹿追町の環境保全センターは瓜幕施設に250kWの発電機を4基置き、2か所の施設を合わせた売電量は2017年度に約618万kWhだった。北海道興部町の北興バイオガスプラント(2016年稼働、町と農家6戸の利用組合)は搾乳牛560頭のふん尿から年間約54万m³のバイオガスをつくり、年間発電量は1,216MWh、FITで全量を売電して年間約5千万円の収入を得ている。北海道上士幌町では町内7基のプラントの発電能力が合計2.27MW、年間の想定発電量は約1,810万kWhで、地域の新電力「かみしほろ電力」が特定卸供給で町内に供給している。木質では岡山県真庭市の真庭バイオマス発電(10,000kW、事業費約41億円)が年間約11万トンのほぼ地元産のチップを燃やし、2018年度の売上は約23億円、チップ代として山元に還元される金額は年数億円にのぼる。

これらの収入は、地域の外へ出ていた燃料代と電気代を、地域の農家・森林所有者・運転管理の雇用に変えたものだ。バイオガス事業の採算で整理したとおり、収入は売電だけではない。廃棄物の受入処理料金、熱の販売、消化液の肥料利用、そして燃料としてのメタンや水素の販売が加わる。FITの買取価格は年々下がり、調達価格等算定委員会ではFITに頼らない自立化が議論されているため、売電一本の事業は先細りになる。燃料と熱を地域で使う「地産地消」の比率を高めるほど、FITの変化に左右されにくい事業になる。

試算 水素が15円/Nm³でつくれたら何が変わるか

ここからは編集部の試算だ。前提として、バイオマスのガス化で水素を1Nm³あたり15円で製造できる技術が確立した場合を考える。これは公開されている数字よりかなり低い。改定された水素基本戦略(2023年6月)は水素の供給コストの目標を2030年に30円/Nm³、2050年に20円/Nm³以下と置き、九重町の実証の成果は30円/Nm³、NEDOの資料ではLNGと同じ熱量あたりの価格になる水準(LNGパリティ)が約21.6円/Nm³(2023年11月のLNG価格)とされている。15円/Nm³という水準は、現時点で公表されている実績や目標のいずれにも達していない「仮定」であることを先に断っておく。

その上で、もし15円/Nm³が実現すれば、水素は化石燃料より安いエネルギーになる。水素1Nm³の発熱量(低位)は約3kWhなので、熱量1kWhあたりの燃料費は約5円。LNGパリティを下回り、ガソリンや軽油を熱量で換算した燃料費より安い。この水素をコジェネや水素エンジンで電気と熱に変えれば、売電(水素発電)だけでなく、公共施設や温泉、温室、工場の熱に使える。路線バスや農機、ごみ収集車を水素エンジンで走らせれば、軽油の代金が地域に残る。更新できずに閉じるガソリンスタンドの跡地を、地域産の水素とバイオメタンのステーションに変える道も開ける。

地域の収支で考えると、たとえば下川町のように年9億円(GRPの約6%)のエネルギー代金が流出している町で、その3割を地域産の燃料と電気に置き換えられれば、約3億円が毎年地域に留まる計算になる。これは一つの中規模のバイオガスプラントの年間売電収入と同じ桁であり、雇用と原料の買い取りを通じて農家や森林所有者にも回る。ガソリンスタンドや路線バスの赤字を埋めるために外から持ってくる補助金ではなく、地域が自分で稼ぐお金で暮らしの基盤を支える、という順番に変わる。もちろん、15円/Nm³が実現しなければこの計算は成り立たない。技術の実証と、原料を安く集める仕組みの両方がそろって初めて開ける可能性だ。

観光と暮らしへの波及

バイオマスの施設は、それ自体が観光と教育の資源になる。真庭市の「バイオマスツアー真庭」は2012年に参加者が累計1万人、2016年に2万人を超え、年間2,000〜3,000人が訪れる。鹿追町では発電の余剰熱でマンゴーやチョウザメを育て、水耕栽培で障がい者の雇用を生んでいる(農福連携)。山形県最上町は木質チップボイラーで温泉や福祉施設に熱を供給している。エネルギーを地域でつくる取り組みは、視察や体験、特産品を通じて観光の収入にもつながる。

災害への備えという意味も大きい。2018年の北海道胆振東部地震では北海道全域が停電(ブラックアウト)し、約295万戸が電気を失った。搾乳機が止まった酪農家は非常用発電機の手配に追われ、乳房炎が多発した。農林水産省はこの地震を機に、バイオガスプラントが停電時に自立運転できるようにする強靱化を促している。ごみ発電についても環境省は、廃棄物処理施設を災害時のエネルギー拠点として整備する補助を設け、熊本市は西部環境工場のごみ発電の電気を専用線で避難所に送る体制をつくった。地域の中にエネルギー源があることは、平時の収支だけでなく、非常時の暮らしを守るライフラインになる。

条件と課題

  • 原料の安定確保と収集コスト:ふん尿も木も「集める費用」が事業の成否を分ける。農家・森林所有者・自治体の収集の仕組みを先に設計する必要がある。
  • 技術の段階:メタン発酵と木質の燃焼・熱利用は実用の段階にあるが、バイオマスから水素をつくるガス化は実証の段階で、九重町の事業でも材料費の高騰が課題に挙がった。15円/Nm³は仮定にすぎない。
  • FITからの自立:売電価格は下がり続ける。燃料・熱・消化液・処理料金を組み合わせ、地産地消の比率を上げる。
  • 消化液と副産物の処理:液肥として畑に戻す先と、水処理の計画が要る。
  • 自治体の体制:農林水産省などが選定するバイオマス産業都市はこれまでに107市町村。先行する町に共通するのは、町が事業の主体か調整役になり、利用組合や地域新電力を通じて利益を地域に戻す仕組みを持っている点だ。

地方の収支の赤字の多くは、エネルギーの支払いでできている。その支払いを減らす資源は、牛舎と鶏舎とごみ集積所と山に、毎日のように生まれている。ガス化の技術と、集める仕組みと、使い切る地域の需要。三つがそろえば、未利用のバイオマスは、地域が自分で稼ぎ、暮らしを守る土台になる。

参考: 環境省「地域経済循環分析とは」(2015年12月)、環境省 平成30年版 環境白書 第1部第2章第1節、環境省「地域経済循環分析ツール」、資源エネルギー庁「SS過疎地対策ハンドブック」(2025年5月)、資源エネルギー庁「新たな地域燃料流通に関する研究会 中間とりまとめ1.0」(2026年8月)、資源エネルギー庁 揮発油販売業者数・給油所数(2025年7月)、東京消防庁 地下貯蔵タンクの規制、国土交通省「地域公共交通の現状」(2025年6月)、国土交通省「令和元年度乗合バス事業の収支状況について」、農林水産省「バイオマス活用推進基本計画」(2022年9月)、農林水産省「畜産環境をめぐる情勢」(2026年10月)、環境省「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和5年度)について」、資源エネルギー庁 FIT・FIP制度ガイドブック2026、経済産業省 水素基本戦略の改定のポイント(2023年6月)、環境省 CO2排出削減対策技術開発の成果(地熱とバイオマスによる水素製造、九重町)、清水建設「地熱とバイオマスを活用した水素製造実証プラント」(2021年)、自然エネルギー財団 鹿追町のバイオガス(2019年10月)、真庭市「真庭バイオマス産業杜市構想(改訂版)」(2020年10月)、ヤンマーエネルギーシステム 水素専焼エンジン発電の稼働(2024年11月)、資源エネルギー庁「日本初のブラックアウト」

この特集に出てくる用語

用語集を開く

ほかの特集

特集